2014/7/19更新

統合的湖沼流域管理(Integrated Lake Basin Management, ILBM

研究の背景
  湖沼は多くの重要な価値(生態系サービス)を持っています。飲料水、灌漑用水のような資源供給サービス、洪水調整、汚染の自浄のような調整的サービス、美しい景観などの文化的サービスが挙げられます。

しかし、見えないところで湖沼環境の悪化が進み、これらのサービスが損なわれてしまうことがあり、世界中の湖沼で問題となっています(例えば汚濁の流入による富栄養化問題)。そこで科学的調査、研究を行い、その情報を政策に反映し、組織体制、技術の導入、資金調達法の確立を行うことで持続可能な湖沼利用を行う「統合的湖沼流域管理(ILBM)」が必要とされています。

我々のグループは湖沼の水文・水質に影響を与える陸域すなわち流域に着目して、健全な湖沼を保全するための流域のあり方を探しています。具体的には水質調査や、水文水質モデルの利用により汚濁物質の挙動を把握し、その科学的知見を活かした持続的・効果的な水環境保全対策の提案を行います。
  我々のグループでの研究成果としては琵琶湖流域を対象としてダイオキシン類や懸濁物質の挙動予測を、また阿蘇海を対象として栄養塩や懸濁物質の挙動解析を行ったものがあります。現在は主にマレーシア河川流域を対象として行っています(詳細は下記・現在取り組んでいるテーマ)。


研究方法
@流域関連情報のGIS(Geographic Information System,地理情報システム)による解析

土地利用、人口分布等の情報をGISでまとめ、流域やその中の各地域の特徴など、問題点を把握します。

Aサンプリング調査による河川・湖沼の汚濁実態調査

河川での流量観測、湖内水質・底質調査を行います。湖内水質調査は主に富栄養化の原因となる栄養塩(窒素・リン)や有機物を対象として水深別測定を行い、水質分布や季節変動を把握します。


           
写真:採水風景


B水文・水質モデルによる河川・湖沼の汚濁負荷機構のシミュレーション

得られた情報を基に流域水文・水質モデル(HSPF, Hydrological Simulation Program FortranSWAT, Soil and Water Assessment Tool)や湖内水質モデル(DYRESM DYnamic REservoir Simulation ModelELCOM, Estuary Lake and Coastal Osean ModelCAEDYM, Computational Aquatic Ecosystem Dynamics Model)を用いて河川・湖沼の水質を再現します。更に、様々な水環境保全対策が行われた場合の湖沼水質の将来予測を行います。

C汚濁負荷量評価指標の開発

水環境保全対策には流域住民の行動が重要です。得られた科学的知見を流域住民にもわかりやすく表現するための、汚濁負荷量評価指標の開発を行っています(エコロジカル・フットプリントの概念を応用した指標)。


                        図:研究の概要



構成メンバー(2014年度)

D3              呉 慧普i韓国出身)
D1
            矢澤 大志
M2            長田 智恵美
M2             河田 悠
M1
             近藤 崇
M1         
水落 大介




現在取り組んでいるテーマ

●マレーシア河川を対象とした流域管理手法の構築

私たちのグループの主な研究対象であるマレーシア河川流域に対して、その問題解決に向けた最適な水環境保全事業の提案のために、行政・住民を始めとした流域内関係者と協働・連携しながら研究を進めています。

 


                       写真:マレーシア河川

●エコロジカル・フットプリントの概念を用いた汚濁負荷量評価指標の開発

湖へ流入する汚濁負荷量を削減するためには、流域住民の対策行動が不可欠です。そこでエコロジカル・フットプリントの概念を用い、汚濁負荷量の評価システムの作成を行っています。

エコロジカル・フットプリントとは、ある人の消費資源を生産するのに必要な土地面積を表す指標であり、「地球〜個分の暮らし」と表現します。汚濁評価指標ではこれを応用させ、人間活動により排出する汚濁負荷量を「湖沼〜個分である」と表現します。

●その他の対象流域

(1)韓国(慶安川)

慶安川は韓国の代表的な河川で、その流域は市街地(11.2%)と農耕地(16.4%)の比率が高く、人口密度が高い(467 /?)です。慶安川流域は韓国の四大江の一つである漢江水系の流域内でも汚染度が最も高い流域です(BOD 3.4r/L, 2008)。慶安川はソウル市民の上水源である八堂湖に流入する河川の一つで、八堂湖の上水源取水場は慶安川が流入する地点にあります。このため、慶安川流域は八堂湖の上水源の水質管理において最も重要な流域です。

 これらの湖、河川の問題の調査(データ収集)GISを用いた解析を行い、流域管理政策の提言を行います。

(
2)ベトナム(Thac Ba, Hoa Hinh Reservoirs

 ベトナム・ハノイは多くの湖や河川のある美しい町です。しかし近年、湖や河川(例えば、Thac Ba, Hoa Hinh Reservoirs)では、未処理の生活系排水や工場排水が流入しており、ゴミも捨てられ、汚濁が顕在化しています。CODBODSSも基準値を超えており、適切な水質管理の技術や政策が求められています。


                    写真:Thac Ba Reservoir


主な研究設備

GISGeographic Information System,地理情報システム)



●オートアナライザー(BLTEC製)


 

研究業績

《特別研究》
GISを用いた琵琶湖流域におけるSS濃度分布の評価に関する研究(H11年度):高松正嗣
○野洲川流域のけるダイオキシン類分布と土壌特性が与える影響(H13年度):鈴木祐麻
○流域特性を考慮した表層土壌と河口部底質のダイオキシン類分布状況に関する研究(H15年度):兼松正和
○エコロジカル・フットプリントの概念を応用した統合的湖沼流域管理手法の提案(H20年度):小林拓磨

○阿蘇海流域における水質予測モデルの構築と水質改善事業の影響評価(H22年度):長澤真利

○水質予測モデルを用いたマレーシア・ランガット川における流域管理方法の検討(H24年度):河田悠

○マレーシア・セランゴール川流域における微生物汚染の評価(H25年度):近藤崇

《修士論文》

HSPFを利用したSSの河川流域内挙動の予測(H13年度):池田智美
○微量汚染物質の流域内挙動評価のための基礎的研究(H13年度):高松正嗣

Behavior of Particulate Matter in Watersheds Evaluated by Molecular Markers including Dioxins and PAHs(H15年度):鈴木祐麻

○琵琶湖流域における土壌中ダイオキシン類の分布および水中ダイオキシン類の定量分析(H16年度):朴白洙

○流域圏に着目した河川水中ダイオキシン類の動態解析(H17年度):兼松正和
○琵琶湖流域中の大気、森林植物及び土壌に含まれるダイオキシン類量の比較検討(H17年度):齊野玲子
阿蘇海底質の汚濁状況の把握と底質汚濁が水質形成に及ぼす影響(H21年度):鈴木雄大

○エコロジカル・フットプリントの概念を用いた湖沼流入汚濁負荷評価指標の開発:天橋立・阿蘇海流域への適用(H22年度):小林拓磨

○マレーシア・ジョホール河川流域における分布型流域モデルの構築と降雨パターンの変化に伴う流出量の変動解析(H25年度):矢澤大志

《博士学位論文》
○流域圏を対象にしたダイオキシン類の蓄積量と起源および流出挙動の推定(H17年度):佐藤圭輔

統合的湖沼流域管理の実現に向けた水環境評価システムの提案:阿蘇海・天橋立流域を対象として(H21年度):堀江陽介

○流域圏を対象とした汚濁物質およびダイオキシン類の汚染実態・起源と流出動態の解析(H22年度) :朴白洙

○For Applying Integrated Lake Basin Management Concept in Northern Vietnam: A Case Study of Thac Ba Watershed(H24年度):Nguyen Ngoc Tue

共同研究機関、研究協力機関など                
  舞鶴工業高等専門学校 白藤中生 教授                
  京都府丹後広域振興局

阿蘇海環境づくり協働会議(参加団体:京都大学、舞鶴工業高等専門学校、宮津商工会議所、与謝野町商工会、社団法人天橋立観光協会、与謝野町観光協会、天橋立を守る会、宮津市漁業協同組合、JA京都、宮津地方森林組合、宮津市自治連合協議会、宮津市連合婦人会、与謝野町区長会連絡協議会、与謝野町婦人会、府立海洋高等学校、NPO法人丹後の自然を守る会、宮津市、与謝野町、京都府)