《マレーシアの主要河川流域を対象にした流域管理手法の検討》
私たちは、近年の経済発展が著しいマレーシアを対象にして、アジア型の「リスク評価
に基づく統合的流域管理(Risk Based Integrated Watershed Management)」の体系
化を図っています。マレーシアをはじめとするアジア諸国では、急速な経済発展のため様々な環境問題が噴出していると同時に、その環境整備に努力する余裕も生まれつつあります。つまり、日本がこの数十年において対応してきたことを、極めて短期間で経験・対応する必要があるといえます。特に流域管理・リスク管理という点においては、アジア諸国はまだまだ整備が遅れており、人の衛生的環境の確保が不十分である地域も多いのが現状です。私たちは、水文・水質的観点から流域管理上の問題点を洗い出し、分布型流域モデルを用いたシナリオシミュレーションによって流域管理手法を検討しています。
具体的な検討事項としては、以下のようなものがあります。
@土地利用変化に伴う汚染物質の流出解析
マレーシアの産業を支えているのは、英国植民地時代から続いているパームオイルプランテーションであり、現在では、マレーシアの国土面積の約12%をパームオイルプランテ
ーションが覆っています。パームオイル産業が流域へ与える影響は大きく、マレーシア国内でも問題視されていますが、パームオイルプランテーションからの汚染物質の流出のような面源汚染に対する対策が遅れているのが現状です。私たちは、こういった問題を把握したうえで、汚染実態を水文・水質モデルで再現し、対策による効果をシミュレーションしています。例えば、熱帯林からパームオイルプランテーションへの土地利用の変化がおよぼす影響を解析し、湿地緩衝帯を設けるなどの対策を講じた場合の効果を検証しています。
A地球温暖化がもたらす河川流況の変動解析
マレーシアをはじめとする東南アジアでは、モンスーン気候の影響で起こる集中豪雨の発生に起因する洪水の問題が顕著に起こっており、これらへの早急な対策が必要とされています。私たちは、IPCC(Intergovernmental
Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)の気候変動シナリオを用いて、地球温暖化による気候変動や、益
々深刻化している異常気象などを分析し、流域の水資源に与える影響の評価を行っています。例えば、近年洪水の問題が頻発しているマレーシアのジョホール川流域で分布型流域モデルを構築し、ジョホール川における将来的な洪水対策効果を定量的に評価し、洪水被害の軽減のための流域管理方法を検討しています。そして構築したモデルをプラットホームとして、アジア型のリスク評価に基づく統合的流域管理の実現に役立てていこうと考えています。
B水の安全性を脅かす微生物汚染の変動解析
マレーシアをはじめとする東南アジア諸国では、下水処理制度が未熟であるために河川
水中の微生物汚染が顕著である傾向があります。微生物汚染の進行は安全な水へのアク
セスを脅かすため、水環境の改善のためには微生物汚染への対策は避けては通れないも
のです。マレーシアでは、近隣国に比べて下水道普及率は高いものの、微生物汚染に対する規制が緩いために、近隣国同様に微生物汚染は深刻です。汚染経路としては、ヒトや家畜の排泄物の直接流入や、糞便を肥料として用いることによる面源汚染が考えられています。飲用水源の微生物汚染よる水系感染症のリスクや、河川水を利用している住民(農家や水産業者)の健康影響に与えるリスクも危惧されます。私たちは、微生物汚染を再現する水文・水質モデルを構築し、汚染源に対する対策が講じられた場合の効果を検証しています。
C統合的水資源管理(IWRM: Integrated Water Resource Management)
マレーシアでは気候変動のために乾期時に雨が降らない期間が続き、首都クアラルンプールを中心に渇水問題が度々問題になっています。そこで私たちは、地下水の利用によって水需要問題を解決できないかというアプローチを試みており、地下水量や水質(栄養塩類や重金属)の実態調査を行っています。今後、どの分野に地下水を利用できるのかを考えていき、表流水だけでなく地下水を 含めた、最適な統合的水資源管理を達成するための政策を提言していこうとしています。
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