琵琶湖や霞ケ浦をはじめ国内の多くの湖沼において、数多くの流域発生源対策が実施されてきました。近年、これらの効果もあり、多くの湖沼でBODが減少しています。しかしながら、CODが増加傾向を示すという状況が報告されています。このことから、湖沼水中の天然有機物(Natural
Organic Matter、NOM)あるいは溶存態有機物(Dissolved Organic Matter、DOM)が質的・量的に変化し、微生物などによって分解されにくい溶存態有機物である難分解性溶存態有機物(Refractory
DOM, R-DOM)が湖沼水中に増加・蓄積していると考えられています。しかし、難分解性溶存態有機物が、湖沼生態系や私たちの水利用にどのような影響を与えているかはほとんど分かっていません。湖沼環境保全および水道水源の安全性確保のためにも、この現象の解明やその定量的な影響評価が必要不可欠です。
私たちは、平成21年度から滋賀県琵琶湖環境科学研究センター等の協力の下、琵琶湖流域における難分解性溶存態有機物に関する研究を行っています。具体的には、より現場に近い条件での湖沼有機物の分解性を評価するための試験法の開発、3次元蛍光分析(EEM)や有機物組成分析による有機物の詳細な分解挙動の解明、難分解性有機物の構造特性の把握、生態毒性評価等に取り組んでいます。
平成22年度まで、NOMのより現場に近い分解性を評価することを目的とした長期間生分解性試験を確立し、それを琵琶湖北湖の夏季表層水へ適用しました。その結果、夏季の琵琶湖表層水に含まれるNOMの分解性評価には200日程度必要であることが明らかになり、従来の100日間試験では琵琶湖NOMの分解性を5%程度過小評価している可能性が示唆されました。また、季節によってNOMの分解挙動が異なっていることが明らかになりつつあります。さらに、蛍光分析による有機物の分解特性を評価した結果、琵琶湖NOMの分解過程中の質的な変化はDOC濃度のそれとは異なった傾向を示すことが明らかとなりました。私たちが開発した長期間生分解性試験により、琵琶湖NOMのより本質的な(inherent)生分解性の評価が可能となるのみならず、より現場に近い条件で調製された難分解性有機物のさらなる研究(例えば、生態毒性評価など)を可能にしました。
H23年度は、過年度の成果および課題を踏まえ、琵琶湖NOMの分解挙動を厳密に評価・予測するために200日間程度の分解性試験を継続して実施するとともに、速度論的な解析等を行うことによってその質的変化について詳しく評価する必要があると考えています。琵琶湖NOMの分解過程における質的変化をより詳細に把握するためにアミノ酸や単糖などの組成分析を実施すると同時に、LC/MS/MS、NMR等の高度機器分析による難分解性有機物の構造特性の把握にも取り組んでいます。
藻類の蛍光特性を利用した光合成阻害試験に関する研究を行っています。藻類に光を照射した際に光合成色素の一種であるクロロフィルは蛍光を放出します。光合成阻害試験では、その蛍光量の変化から光合成阻害率を算出し、化学物質の生態毒性評価を行います。
藻類を用いた光合成阻害試験では、同じ藻類を用いた生長阻害試験とは異なり、短時間(30分)での生態毒性評価が可能であるため、実排水をほぼリアルタイムで監視することができます。また、物質により光合成阻害の応答の形に特徴が見られ、生態毒性が検出された際に毒性物質を推定できる可能性があると考えています。
平成22年度の研究では、藻類による光合成阻害試験結果の違いを確認するために、緑藻からClosterium ehrenbergii、 Pseudokirchneriella subcapitata、 Chlorella vulgaris、 Chlamydomonas moewusii、 Scenedesmus obliquusの5種、藍藻からMerismopedia tenuissimaの1種の計6種の藻類について、重金属(塩化銅(U))、医薬品(トリクロサン)、農薬(チオベンカルブ、シメトリン)の4物質に対する光合成阻害試験を行いました。その結果、藻類ごとに感受性が異なり、また、応答の時間変化も種によって異なることが明らかになりました。
今後の研究では、光合成阻害試験方法の確立と試験対象藻類の選定、化学物質の光合成阻害試験データの蓄積を目標に研究を行う予定です。試験方法が確立された後には、実際の排水への適用を目指して、複合影響を考慮した光合成阻害試験やNOMの生態毒性評価を行う予定です。
DOMは多種多様な有機物の混合物であり、すべての成分を同定・定量することは現実的ではありません。私たちは、固相抽出法およびLC/MSを組み合わせることにより、DOM成分を網羅的かつ定量的に検出できる新規手法を開発し、DOMの質的・量的特性の解明に取り組んでいます。最終的には、(i)NOMの組成/構造の解明、(ii)流域圏における発生源の解明、(iii)水環境中におけるNOMの挙動・反応性の解明、(iv)NOMに関わるリスク/安全性の評価を通して、水環境の保全に資することを目指しています。
・琵琶湖水中難分解性溶存有機物の特性把握(卒論)
・琵琶湖水中天然有機物の分解特性解析(修論)
・ミカヅキモの蛍光特性を利用した微量汚染物質の毒性評価(卒論)
・藻類を用いた光合成阻害試験方法の確立に向けた基礎的研究(卒論)
・藻類を用いた光合成阻害試験法の開発と適用(修論)
・再生水利用に向けた溶存有機物の分画手法による特性解析(修論)
・下水二次処理水中有機物および天然有機物の3次元蛍光分析による特性解析(卒論)
・RO膜foulingに及ぼす天然有機物質の分子量特性評価(修論)
・溶存有機物によるUF膜ファウリングに関する基礎的研究(卒論)
・水環境中有機物(NOM)の分類とろ過砂を用いた有機物除去に関する研究(修論)
・下水再利用に向けた高度・再生処理における溶存有機物の挙動(修論)
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